JGAハンディキャップシステムを、いち早く導入した松山ゴルフ倶楽部は、その効果を実感している。


公平なハンディキャップ(以下HDCP)による競技の活性化だけでなく、労力や経費の削減という副産物もあったという。導入までの経緯や倶楽部の現状を亀田勝彦競技・HDCP委員会副委員長と井谷充宏支配人に聞いた。

―スロープシステム導入までの経緯をお聞かせください。

亀田:スロープシステムの導入は世界的な趨勢でもありますし、JGAが決めたのだから我々がやらない理由はないと競技・HDCP委員会ですんなり決まりました。我々が導入して、率先してやっていくぞという使命感のようなものもありましたね。

井谷:競技・HDCP委員会で決まると、支配人である私や事務局も「よし、やろう!みんなで勉強しよう!」という雰囲気になりました。松山ゴルフ倶楽部は愛媛県で最古の倶楽部です。私はこちらの支配人に赴任して4年ほどですが、会員のみなさんから「伝統ある倶楽部として愛媛県を引っ張っていくのだ」という意識の高さを感じます。そういった意識の高さがあったから、スムーズに事が運んだのではないでしょうか。

亀田:倶楽部の先輩方が事あるごとに引っ張ってきた経緯を見てきていますから、今回は自分たちがやらなきゃいけないという気持ちは確かにありました。

井谷:JGAが新居浜で開催してくれた四国の説明会にみんなで行きましたね。

亀田:合計3回でしたか。ただ、正直に申し上げて説明会だけでは肚にストンと落ちませんでした。HDCPインデックスやスロープレーティングなど、初めて聞く名前ばかりでしたから自分の中でしっかりと消化して競技・HDCP委員や会員にきちんと説明できるようになるには自分で勉強するしかないと、私や支配人、事務局のスタッフがいただいた資料をかなり読み込みました。私が責任者のような立場でしたから、「私自身がブレたらいけない、やる以上は絶対に成功させなければいけない」という気持ちが強かったですね。分からないところは四国連盟に質問して教えていただいたこともありました。

―そして導入に至るわけですね。

亀田:松山ゴルフ倶楽部は、スタートと同時に導入したのですが、それまでに勉強会を繰り返し、競技・HDCP委員はスロープシステムについてのある程度の知識を備えるまでになっていました。会員のみなさんには会報誌でお知らせして文章も配布して啓蒙していきましたが、なかなかそれだけで理解していただくのは難しいものがありました。委員会のメンバーや事務局のスタッフが協力して実戦の場で会員からの疑問にひとつひとつ答えていったことが円滑な切り替えにつながったと思います。みなさん、非常に前向きな姿勢で活躍してくださいました。一丸となれたからこそ、浸透できたのだと感じています。

―スロープシステムを導入して倶楽部競技に変化はありましたか。

井谷:以前、月例会は年齢や性別によって使用するティーを5段階に分けていました。男性は60歳未満が青、60代が白、70代はゴールド、80歳以上と60歳
未満の女性が赤、85歳以上の男性と60歳以上の女性がピンクという形で、年を取ってティーが前になってもHDCPは同じというシステムでした。ですから、前のティーでできる年配の方が有利だったのです。ところがスロープシステムではティーによってHDCPが変動しますから、年配の方の有利さがなくなったわけです。公平なHDCPですから当たり前のことなのですが、最初は年配の方からとまどいの声がありました。

亀田:スロープシステム導入時に会員の方に最も納得していただくのが難しかったのがその点でした。たとえば、ゴールドでプレーする70代男性の方から「私のHDCPインデックスは15.0なのに、なぜ月例会でゴールドから回ると12.0に減るのだ」というような疑問が出てきました。ティーによってHDCPが変動するということに馴染みがなかったので、すぐには理解ができなかったようです。難易度によってHDCPが変動したほうが公平にプレーできるということを理解していただけるまで丁寧に何度も説明させてもらいました。

井谷:今ではもう会員のみなさんが理解してくれています。

亀田:今年から月例会は倶楽部側が年齢でティーを決めるのではなく、プレーヤー自身で選べるように変更しました。それがスロープシステムをより生かせる形だと思います。また、あるプレーヤーが「きょうは白からいこう」と考えていても、同伴競技者がみな青から打つことが分かればスタート直前に「じゃあ、私も一緒に青からいきます」と変更することも可能。臨機応変にできるようになった点もよかったと思いま
す。それに、スロープシステム導入後は月例会優勝者の顔ぶれがバラエティーに富むようになりましたから、みなさんやる気が増してきたように感じます。

―クラブ選手権などはいかがですか。

亀田:三大競技のうち理事長杯とキャプテン杯に関して以前は「シングルさんが優勝するもの」という雰囲気がありましたが、スロープシステムではHDCP20の方が勝ってもおかしくないわけです。そうすると「あの人が勝ったのなら、私も挑戦してみよう」とより活性化することが期待できます。それが倶楽部全体の底上げにつながると思っています。

―HDCP委員の仕事もずいぶん楽になったのではないですか。

亀田:はい。以前のHDCPですと委員会で数値を調整しなければいけませんでしたが、スロープシステムでは自動的に算出されます。HDCP委員の仕事の大半がHDCPを決める作業ですから、非常に楽になりましたね。

井谷:事務局としてもHDCP委員会で使用する資料をつくる作業をしなくてすむようになったわけですから担当者が喜んでいました。以前は、夜遅くまで作業をしていましたからね。どの倶楽部も同様の資料づくりには少なからず時間を割いているはずですよ。それがなくなるだけでもかなり違うはずです。こんなにいいものなのだから、みんなやりましょうと支配人会などで勧めているのですが…。他倶楽部の方と話しをしていると、「新しいものを勉強するのが面倒だ」という雰囲気が伝わってきます。食わず嫌いのようなところがあるのではないでしょうか。もっとうまくJGAが誘導していってほしいですね。

亀田:導入しない理由に「お金がかかる」ということを挙げている倶楽部もあるようです。実際は、そんなことはないのですが。

井谷:コンピューターに新しいシステムを取り入れる初期費用はかかりましたが、それくらいです。以前はHDCP更新のたびに会員のみなさんにハガキでお知らせしていましたが、今は毎月更新されるHDCPインデックスをクラブハウス内に貼り出す形にしましたから少なくとも通信費は削減されたわけです。

亀田:長い目で見れば経費的にもプラスになるはずです。導入から2年たち、会員のみなさんにしっかり浸透していると感じますし、本当にやってよかったと思っています。

―倶楽部HDCPを残してほしいという声は出ませんでしたか。

井谷:それはありませんでした。もう2年経ちましたし、みなさん頭の中はすっきりと切り替わっているようです。また、以前はHDCP順のHDCPボードをクラブハウス内に掲示していたのですが、今では会員の皆様の苗字の五十音順のメンバーズボードに変更しています。

―スロープシステムの課題やJGAへの要望は何かあるでしょうか。

亀田:スロープシステムは公平性と互換性に優れているものですよね。互換性というのはスロープシステムが広く普及してこそ成り立つものだと思います。
しかし、現状では我々のように導入している倶楽部は少数派です。このままでは発展性がないような気がしています。もう少し強く指導していただければ、各倶楽部に導入しようという意識が広がっていくのではないかと思います。

井谷:マーケティングの世界では、あるものが世間に浸透するかどうかは普及率15%が分かれ目だと言われています。たとえば、今では銀行やコンビニのATMを誰もが利用していますが、当初はなかなか普及しませんでした。当時、私は銀行に勤めていました。お客様にATMのことを説明させていただくと「預けたお金を間違いなく数えてくれるのか」とか「本当に正しい金額が出てくるのか」と今では考えられないような疑問や不安の声がたくさんあったのです。従来通り銀行の窓口を利用したほうが安心だという方ばかりでした。ところが、普及率が15%になったあたりから状況が劇的に変わり、一気に普及が進んだのです。スロープシステムも普及のスピードが遅いようですが、ここであきらめていては先がありません。JGAのみなさんには何が何でも15%に達するまで努力してほしいと思います。そうすれば、必ず道が拓けるはずです。

JGA会報「JGA GOLF JOURNAL98号より転載」