表蔵王国際ゴルフクラブでは底辺拡大のための最適のツールとしてとらえ、一層の普及を目指している。
その内容を後藤久幸ハンディキャップ副委員長、大友富雄競技委員長、斎藤清支配人に聞いた。
― 東北地方はハンディキャップ(以下HDCP)インデックスの普及率が全国でもトップクラスです。その中のひとつである表蔵王国際ゴルフクラブではどのような普及活動を行っていったのでしょうか。
大友:普及率の高さについては東北では冬の間はオフシーズンになるゴルフ場が多いことが影響しているかもしれません。スロープシステムのスタートが1月1日でちょうどオフシーズンでしたから切り替えにはいいタイミングだったと思います。それに東北人は辛抱強いですから、やるとなったら粘り強くやる。シーズンインとなる4月までに何とか普及させようと、どんなシステムなのか、どのような利点があるのか、
活用すればこんなに公平に楽しくゴルフができるのだということを説明していきました。
斎藤:前年(2013年)の11月にクラブの各分科委員会の委員が集まる会合で競技委員長の大友さんにスロープシステムの説明をしていただきましたね。まずは各委員にどういうシステムなのかを知ってもらおうと。そしてメンバーのみなさんにスロープシステムについての案内状と新旧システムの違いを説明した資料をお送りしました。案内状には新HDCPシステムへの登録に異議のある方は申し出てくださいと記していましたが、ほとんど異議は出ませんでした。
後藤:HDCP委員会で最初に説明した時にはまだスロープシステムについての理解度はそう高くありませんでしたが、とにかく導入することを前提にみんなで盛り上げていこうという雰囲気でまとまっていました。
大友:すべてを理解していただいてからスタートというのは不可能ですので、とにかくやってみようと。表蔵王ではシーズン最初の月例会である4月の月例会から導入しました。
斎藤:参加者のみなさんに少しでも理解を深めていただけるように受付にスロープシステムでHDCPがどうなるのかを解説したホワイトボードを設置して、1人1人に説明していきました。「女性はこうなります、ゴールドティーからプレーされる方はこうなります」というように。中には「面倒だから今までのHDCPでいいじゃないか」とおっしゃる方もいましたが、とにかく根気強くお話しさせていただきました。
大友:最初は理 解できなかった方も2度、3度と実際にやっていくうちにスロープシステムの良さを実感してきたようです。やはり体験してもらうことが大事ですね。数カ月で軌道に乗ったと感じました。
― クラブ競技への参加状況に変化はありましたか。
斎藤:はい。月例会では1割から2割程度参加者が増えています。以前はクラブ側で使用ティーを決めていたのですが、スロープシステム採用後は参加者自身が選択できるようにしました。それが大きかったと思います。
後藤:年をとって飛ばなくなるとレギュラーティーからでも届かなくなる方が少なくありません。それでも以前の月例会ではレギュラーティーと決められていれば、そこから回らなければならなかった。すると上位に入れる可能性が低くなりますし、プレーしていても面白くなくなってくるわけです。それがスロープシステムならばゴールドティーからでもきちんとHDCPが出ますから楽しめるうえに、上位も狙える。
「最初は不公平かと思っていたけど、やってみると非常に公平だと分かった」という意見もいただいています。
大友:最初は「同じティーからやらないと公平ではないのでは」という考えの方もいましたが、今ではみなさん理解してそれぞれのティーで楽しんでいますね。
斎藤:スロープシステムの効果として感じるのは月例会の上位の顔ぶれに変化があったことです。女性の優勝者も出るようになってきました。
― ほかのクラブ競技ではいかがでしょう。
大友:表蔵王では毎年12月にその年のクラブ競技の優勝者や上位入賞者が参加できる年間チャンピオンズカップという競技を開催しています。以前はバックティーからプレーする決まりでしたが、今では全カテゴリーのティーを選んでもらえるようにしています。その結果、以前はエントリーしなかった女性やシニアのプレーヤーも参加するという効果が出ています。
― つまり、より多くのメンバーに年間チャンピオンの可能性が出てきたということですね。
斎藤:はい、その通りです。
大友:うちのクラブ競 技の話ではありませんが、表蔵王をホームコースにしている方がもうひとつメンバーになっている他クラブの月例会にこちらのHDCPで参加して優勝したことがあり、「HDCPが甘いんじゃないか」と苦情が来ていたそうです。
斎藤:表蔵王はコースレートが高いのでどうしてもHDCPが多くなります。そのHDCPでコースレートの低 いところでプレーすると必然的にいいスコア(ネット)になってしまい、優勝する。それを疑問に感じた他クラブからこちらに問い合わせや苦情が来たことが以前は何度かありました。
後藤:我々HDCP委員会としてはきちんと評価してHDCPを出しているのだから文句言わないでくれという見解でした。でも、スロープシステムになってからはそのようなことがなくなりましたね。
大友:どのクラブのどのティーでやっても同じHDCPだったということがそもそも公平じゃなかったわけですからね、今考えれば。互換性があるということがHDCPインデックスのいいところ。本当に公平になったと思います。それに各ゴルファーがコースの難易度に対する理解を深めたのではないかと感じます。以前はコースレートやスロープレートのことを考えたことのなかったゴルファーがほとんどだったと思いますが、今では自分のHDCPにそのまま表れますから「ここはこのくらいの難易度なのだ」と感じてプレーするようになったのではないでしょうか。
― スロープシステムが採用されてから約2年半がたちましたが、課題や改善点など感じることがあればお聞かせください。
後藤:月例会などのクラブ競技だけでなく、一般のプライベートコンペでもっともっと使ってもらえるようになればよりスロープシステムの良さが出ると思います。
大友:プライベートコンペでは依然としてダブルペリアが主流です。後藤さんがおっしゃるようにスロープシステムがダブルペリアに置き換わることが理想だと思っています。
斎藤:宮城県ゴルフ連盟がやっているチャレンジカップはスロープシステムを採用していますね。
― チャレンジカップとは、どのような競技でしょうか。
大友:競技というよりオープンコンペのような感覚です。年に10回程度開催しており、参加者が組み合わせをリクエストできますからプライベートコンペ代わりにという方もいます。出場 資 格はHDCPインデックス取得者というしばりはありますが、回を重ねるごとに参加希望者が増えて大盛況ですね。参加されているみなさんはスロープシステムをよく理解していただいていると感じます。チャンレンジカップがこれだけ人気なのですから、各ゴルフ場でもっと同様のコンペを広めていっていいのではないかと思います。それがよりスロープシステムのより一層の普及にもつながるはずです。
後藤:スロープシステムはどのティーから回っても実力を公平に評価してくれるものですからね。
大友:ダブルペリアだと運に左右される部分が少なからずありますが、スロープシステムはそういうところがありません。
後藤:HDCPに関してはスロープシステムを信じてやっていけば間違いないと思っています。
大友:スロープシステムはメンバーライフの楽しさを増してくれるものだと思います。最初は競技に出るようなゴルファーが主でしたが、徐々にみんな当たり前のように利用するようになってきました。みなさん今日プレーするティーのHDCPはいくつなのかということを理解して回っているようです。
― 理解すれば面白さが分かる。
大友:そう思います。
― 理解するところまでどう導いてあげられるかがより一層の普及へのポイントですね。
大友:ゴルフは生涯スポーツであり、おじいちゃんおばあちゃんと孫が一緒に回れる素晴らしいスポーツです。スロープシステムはこのように全く違う世代、違うティーからプレーする者同士がより楽しくできるシステムなのです。それに、初心者にゴルフの楽しさを覚えてもらうためにも非常に有効なものだと思います。最初から無理に後ろのティーから打たされればうまくいくわけはないですからゴルフはつまらないものだと思ってしまうかもしれません。まずは短い距離でプレーして、うまくいくことの楽しさを知ってもらいたい。そういうところでもスロープシステムは活用できるはずです。
後藤:私もそう思います。スロープシステムは底辺を広げ、ゴルフの本当の楽しさを教えてくれるもの。そういったことを伝えていきたいと思っています。
JGA会報「JGA GOLF JOURNAL99号より転載」