賀茂カントリークラブでは、JGAハンディキャップシステムが導入され、現場ではどのような効果が表れ、どのような課題が生まれているのか。

クラブ競技でスロープシステムを採用している賀茂カントリークラブ(広島県)の中谷崇男社長と緒方俊平競技委員長に聞いた。

-まず、スロープシステムを導入した経緯をお聞かせください。

緒方 :JGAがスロープシステムを採用すると知った時、これは絶対に賀茂CCでも導入すべきだと考えました。なぜなら、最も公平なハンディキャップ(以下HDCP)だからです。私は以前、アメリカでプレーした時にスロープシステムを知り、日本よりずい分進んでいるなと感じました。しかもHDCPインデックスを持っていれば世界共通の区分で楽しめる。そのような経験があったから、すんなりと「これはうちでも導入すべき」と判断できたのです。

-最も公平だと感じたのはどのあたりでしょう。

緒方 :たとえば 130ヤードで池越えのパー 3があるとしましょう。上手な人はこの程度の距離なら池はそれほど気になりません。しかし、HDCP30程度のプレーヤーにとっては大変なプレッシャーになる。スロープシステムは、ゴルファーのそのような気持ちを反映させたものだと思います。だから、誰もが公平に楽しむことができる非常にいい制度なのです。我々がしっかりと内容を理解し、普及を推進させてこそ、みんながプレーを楽しめ、クラブがより発展すると考えました。

-スロープシステムを会員に周知させるためにどのような活動を行いましたか。

中谷 :まず競技委員会などクラブ内の各委員会で協議しました。最終的に競技委員会で決まった事柄をクラブの月報に掲載し、クラブハウス内でも同様のお知らせを掲示しました。また、競技では当日、改めて出場者に説明し、理解を深めていただくという取り組みをしてきました。

-導入にあたって反対意見はありましたか。

緒方 :いろんな意見を言う会員はもちろんいましたが「全責任は競技委員長である自分が持つ」という固い決意で臨みました。反対の立場の会員に個別でスロープシステムの良さを説明し、「これこそみんなが楽しめるHDCPなのだ」と訴えて理解を得たこともあります。ただ、それほど大きな障害はなかったと思います。中谷 総務委員会で「混乱するのではないか」という懸念の声もありましたが、「一流のコースは一流のルールを採用する」との観点から比較的スムーズに導入が決まったと感じています。その背景にあったのは、9年前にJGAHDCPを採用していたことです。

-どのような苦労があったのですか。

中谷 :日本アマなどに出場するにはJGAHDCPが必要ですが、JGAHDCPを採用していないクラブは、別途JGAHDCPを計算し、プレーヤーに付与しなければなりませんでした。つまり、1人のプレーヤーがクラブHDCPとJGAHDCPの2つの数値を持つことになるわけです。しかし、原則としてHDCPは1人のプレーヤーに1つであるべき。そこで、賀茂CCでは平成17年にJGAHDCP一本に絞ったのです。

緒方 :賀茂CCにとっては大きな転機でした。クラブHDCPに愛着のある会員が少なくありませんでしたから批判はありました。それでも、やはり1人のプレーヤーに2つのHDCPがあるというのはHDCPの精神に反すると考えたのです。JGAHDCP導入に際して賀茂CCではクラブハウスに掲示されているメンバーズボードからHDCPを外し、並びもHDCP順から五十音順に変更しました。いわゆるシングルの会員は、メンバーズボードのひとケタの数字のところに自分の名前があることが、ひとつのステータスです。賀茂CCは難易度が高く、「9」になるための査定を厳しく設定していましたから、なおさらシングルHDCPは名誉だと考えられていました。ですから「やっと9になったのになぜそんなことをするのか」という反発は少なくありませんでした。「クラブHDCPとJGAHDCPを併記すればいいだろう」という意見もありました。そのような意見には粘り強く説得し、最後は理解を得られたのですが、この時の経験があったので今回は大きな混乱は起こらなかったのだと思います。

-クラブHDCPへの愛着が強いと、どうしても新しいものを受け入れにくいのでしょう。

緒方 :私はクラブHDCPを否定したり排除したりしようとは思いません。なぜなら、それが日本のゴルフの文化だからです。ただ、日本の文化は尊重しながらも、いいものは取り入れていくべきです。しかし、性急にあるいは強引に新しいものに移行させるのはよくない。いらぬ軋轢を生むだけです。じっくりと年月をかけて納得してもらうことが必要です。クラブHDCPは柔道の段位のように一度手にしたものは落ちないという性質があります。つまり、ベストの時代のHDCPがいつまでもそのプレーヤーの肩書になるということです。これに対して、スロープシステムは今の自分の腕前が如実に反映されるわけですから、かつてはHDCP5や6だった方が15くらいになる例はいくらでもあるでしょう。実際に「オレは6だったのにHDCPインデックス15ってどういうことだ」と文句を言う方はいます。「“HDCPはおいくつですか”と聞かれたら何と答えればいいんだ」と。このような方は、ベストの時代のHDCPに価値観を見出しているのです。これは否定すべきものではありま
せん。私は「昔は6でしたと言えばいいでしょう」と答えています。JGAHDCP導入時も今回のスロープシステムの導入に際しても、このような価値観の違いをどう埋めていくのかが一番のポイントだったと感じています。

-価値観の違いを埋めるために大事なことは何でしょう。

緒方 :スロープシステムへの移行に抵抗があった会員の多くは、どのようなシステムなのかを理解していないという面がありました。「こんなに公平なHDCPなのだ」ということを丁寧に説明すれば「そういうことだったのか」と理解を示してくれることがほとんどです。

中谷 :知ってもらうということが一番大切な作業ですね。

-6月からクラブ競技に採用されたということですが、何か変化はありましたか。

中谷 :クラブ競技では70歳以上のグランドシニアと一般男子は別々のティーを使用しています。従来のJGAHDCPではティーごとのHDCPがないため別の部門として開催せざるを得ませんでした。それがスロープシステムの導入で別々のティーでも公平なHDCPで同じ競技としてプレーできるようになったのです。これは大きな変化だと感じています。

緒方 :グランドシニアの部は参加人数が少なく、競技として成立しない場合もありました。その悩みが解決されたことは競技委員会としてもうれしいですね。

中谷 :女子も含めて3つのティーで公平にできますからね。しかも、スロープシステム導入後はまんべんなく入賞されるようになりました。

-つまり女性やグランドシニアの方の入賞が増えたということですか。

緒方 :入賞者の顔ぶれは大きく変わりましたね。やはりHDCP2や3といった高いレベルのプレーヤーは、どのような条件でもスコアをまとめてくるわけですよ。しかし、アベレージクラスでは、そうはいきません。ですから、競技で上位にくる顔ぶれは、ある程度決まっていたのです。それが、スロープシステムを導入してから女性が優勝したり、年を取って入賞から遠ざかっていた方が上位に入ったりという変化が出てきています。これは本当の意味で公平になったということの証明だと思っています。「どうせ上手い人にはかなわない」と思っていた会員も、が然やる気になってきた。喜んでもらっています。

-課題や問題点についてはいかがでしょう。

中谷 :会員の意見の中に「毎月更新されるから自分のHDCPが覚えられない」というものがありました。以前は4カ月に一度の更新で、その都度会員個々にハガキで通知していたのですが、現在はそれを辞め、一覧表をプリントしてクラブハウス内に掲示している形です。また、J-sysを各クラブで運用していく上でより便利なスタイルを形づくっていただければ、もっと普及していくのではないかと感じています。

緒方 :私は、将来出てくるかもしれない問題点の対策を考えておかなければならないと思います。いくら素晴らしい制度であっても、運用していく中でどこか問題点は出てくるはずですから。たとえば、公平になったがためにかつては上位の常連だったローHDCPのプレーヤーが入賞できなくなり、逆に不公平だと感じる場合もあるということ。JGAにはそこまで読んで対策を考えておいていただきたい。また、スロープシステムやHDCPインデックスという言葉自体があまり浸透していないように思います。一般の方には馴染みがない言葉だからではないでしょうか。もっとシンプルで分かりやすい呼び名を考えてもらいたいですね。スロープシステムは誰もがゴルフをより楽しめる素晴らしいもの。私はもうすぐ70歳ですが、スロープシステムがあれば年をとっても公平なHDCPで胸を張って楽しめると思っていますよ。スロープシステムが定着すれば、日本のゴルフは大きく進化すると思います。ただし、一気に変えていくことは難しい。実際、広島県でスロープシステムを採用しているのはまだ3クラブだけです。JGAには丁寧に説明していく努力を今後も続けてほしい。5 ~ 6年程度の長い時間をかけてじっくりと取り組むつもりで、強力で正しいリーダーシップを発揮してほしいと願います。

JGA会報「JGA GOLF JOURNAL96号より転載」